Happy Unbirthday Songs

hokkaido→tokyo/tsukuba→moscow

chibaちゃんのこと

chibaちゃんの本名は、アンナという。モスクワの大学で建築の勉強をしている、19歳の女の子。chibaは彼女の苗字からつくったニックネームらしい。日本人みたい。ちばあんなちゃん。

 

日本語を勉強しているひとたちの集まりにボランティアとして顔を出したら、その中のひとりがchibaちゃんだった。帰り道、一人だけ帽子ではなくショールを被っているのが印象的だったので、きれいですねと声をかけてみたのだった。黒地に鮮やかなピンク色の花が美しいショールで、彼女の亜麻色の髪の毛がすこし覗いていた。

 

ありがとう、これお母さんが25年前に買ったものを、「ちょうだい~」って譲ってもらったんだ、とchibaちゃんは笑った。

 

最寄りの駅まで、大きな通りを歩きながら、いろんな話をきいた。chibaちゃんは日本に一か月、文科省のプログラムで滞在していたことがあるという。どこにいたの?と聞いたら、「帯広」だって。本当は沖縄希望だったんだけど、でもすごく気に入ったらしい。

 

なんだか話していて気が合ったから、連絡先を交換して、また会おうねって私たちは約束した。

初めての、同年代のおともだち。

 

次にchibaちゃんに会ったのは1週間後だった。ルビャンカ駅のプラットフォームの真ん中で待っていたら、またあの黒いきれいなスカーフを被った彼女が、向うからやってきた。

 

私たちは、駅を出てすぐの、детский мирという、子供向けのおもちゃ屋さんの中に入った。といってもおもちゃを買う訳ではない。屋上からの景色を見ようと誘われて、私は階段を上って行った。

 

屋上にあがると、すぐに、モスクワの中心部が一望できた。ものすごく高い建物ってわけじゃないから、見下ろすっていう感覚とは違う。なんだろう、こんな町だったんだなあって少しほっとする感じ。クレムリン、教会、ビル、そして遠くには大学も見える。「試験が終わってね、これから夏休みだ~っていうときに、よくここにきて、アイスクリーム舐めていたんだよ」とchibaちゃんは嬉しそうに言った。

 

屋上は人もまばらだったけれど、私たちからすこし離れたところに、ハタチくらいの男の子と女の子がいた。chibaちゃんが、あっ、とすこし驚いたような顔をした。男の子の方も、chibaちゃんに気付いて、同じ反応をした。chibaちゃんと男の子は友達だったみたいで、「モスクワは狭いね」みたいなことを話し合っていた。彼らと別れたあと、階段を降りながら、chibaちゃんは「あとで、もうちょっと詳しく話すね」とわたしに小さな声でささやいた。

 

おもちゃ屋さんの出口に向かいながらchibaちゃんは種明しをしてくれた。あの男の子とchibaちゃんは、数年前の夏、避暑地として有名なクリミア半島で出会った。お互いを気に入って、モスクワに戻ってから付き合い始めたのだけれど、彼はひとつ嘘をついていた。同じ年と言っていたのに、彼はchibaちゃんより本当は年下だった。自分を良く見せるためだったのかもしれない。しばらくして嘘はバレ、結局ふたりは疎遠になってしまったけれど、今はおもしろい友達だと思ってる、とchibaちゃんは言った。

 

その後、китай город(チャイナタウン)を抜け、クールスカヤ駅のちかくのショッピングモールに入り、わたしはクレープを、彼女はケンタッキーを食べた。

 

わたしたちは本当にいろんなことを話した。帯広のホームスティ先の家族が優しかったこと、彼女はローラースケートがとても上手でソチオリンピックの開会式にも出演したことがあること、デッサンがとても上手なこと、それから歴史のことまで。どうしてアメリカは日本に原爆を落としたのに、日本人はアメリカが大好きなの?と。どうしてなんだろうな。

 

すごく楽しくて、結局2時間くらいそこで話していた。ひとつ後悔していることが、「chibaちゃんはご両親と住んでるの?」とわたしが聞いてしまったこと。すこし彼女の表情が曇って、「お母さんと」と彼女はいった。「両親」じゃなくて、「家族」って言うべきだった。chibaちゃんの両親は数年前に離婚して、chibaちゃんはママと、弟はパパと住んでいて、ときどき会っているのだと後で知った。

 

うれしかったこともある。6月になったら、ダーチャに行こうと誘ってくれた。「私の家族のダーチャは、すぐ近くに川があって、毎年そこでバーベキューをするのが楽しいよ」

うん、きっと行ってみたい。