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Happy Unbirthday Songs

hokkaido→tokyo/tsukuba→moscow

北朝鮮料理屋に行く

日本人留学生で、私より半年ほど早くモスクワに来た友人が、「おいしい北朝鮮料理屋があるから行ってみようよ」と誘ってくれた。

日本で北朝鮮料理屋を訪れるチャンスはほぼゼロと言って良いだろう。韓国は日本にとってとても身近な国だけれど、北朝鮮と聞くと、なんだか地球の反対側にある国よりも遠く感じてしまう。

それでも先日、モスクワの赤の広場で、金正日金正恩のバッジを胸につけて歩く男性とすれ違った。しかも今回は北朝鮮料理が食べられる店があるという。さすがロシア、旧社会主義国だなあと私は驚いた。興味津々で、私は友人の後をついていくことにした。

 

私たちの最寄り、ウニヴェルシチエット駅の側から、トラムで15分ほど離れた停留所で降りる。そこから少し歩き、目立たない駐車場の中を通り抜けたところに、さらに目立たない2階建てほどの建物があった。

重たいドアを開けると、「ようこそ」と書かれた天女の絵が出迎えてくれた。ここが北朝鮮料理屋の入り口である。知る人ぞ知る場所、というか、友人がいなかったら絶対に来れていなかっただろうなと思った。

地下へ降りると、思いもよらず清潔感のある空間が広がっていた。すでに私たちより前に、韓国人と思われる団体や、中国人、ロシア人が食事を楽しんでいる。店の奥の方はバーのカウンターのようになっており、飲み物はそこから、食事は奥の厨房から運ばれてくるらしい。日本のテレビでもすっかりおなじみの、キム総書記を称える歌謡曲が店内に響き渡っている。壁には、先ほどの入り口のところにも描かれていた天女が、桃源郷のような場所で水浴びを楽しんでいる様子が大きなスケールで描かれている。これは北朝鮮の伝説なのだろうか。

 

私たちを見て、白と黒のチェック柄のジャケットとミニスカートを身にまとった女性店員たちが、「こんにちは」と挨拶してきた。皆、流ちょうにロシア語を話し、顔立ちのくっきりした美人である。全員が黒い長髪を後ろで束ね、前髪は逆立てて頭頂部でボリュームを出し、余った髪を薄く垂らしている。なんだか80年代から90年代くらいに、日本でもこんな髪形が流行っていたよなあとしみじみする。一、二昔前の歌謡曲をぼうっと聴き、一、二昔前のウェイトレスの髪形を眺めているうちに、現在が2016年なのかどうかわからなくなってきた。私はいったい、いまどこで何をしているのだろう?

 

席に案内され、ビビンパ、キムチチャーハン、貝のオイスターソース煮、鴨肉の鉄板焼き、冷麺を注文する。煎茶をすすりながら、私は座席の正面の壁に設置された、テレビ画面から流れる映像にくぎ付けになっていた。それは北朝鮮の建国70周年を祝う大式典の記録で、ライトアップされたスタジアムで、バックバンドの伴奏と共に女性歌手たちが甘い声で歌い、ダンサーたちが一糸乱れぬ演技を披露するものだった。先ほどから聞こえていた歌謡曲は、このコンサートで歌われたものだったのだ。ステージ背後の巨大スクリーンには、金正恩の笑顔や、ロケットの実験の様子が流されている。客席では男性たちが、大きい手振りで、いつまでもいつまでも拍手をしている。それらの映像が、永遠に繰り返されるのだった。

この店は明らかに、背後に国家が関係していると私は思った。レストラン自体が、北朝鮮の広報活動拠点になっている。実際、ウェイトレスたちは感じが良く、頼んだ食事はすべておいしかった。味付けもちょうどよく、久々に辛い料理を食べることが出来て(ロシアにはほとんど辛い料理が無い)、値段も高すぎず、私たちは楽しいひと時を過ごした。日曜日の店内はほとんど満席だった。食後のデザートの大福を待っている間、私は無意識のうちに、かの歌謡曲のメロディーを口ずさんでしまっていることに気が付いた。

 

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(上)入り口の絵

 

 

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(上)ビビンパ、鴨肉の鉄板焼き

 

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(上)客の写真撮影に快く応じる女性店員と、70周年式典ビデオ、そしてチマチョゴリ