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Happy Unbirthday Songs

hokkaido→tokyo/tsukuba→moscow

生きたコイ、値下げ中

朝起きて、授業で配られた対話形式のテキストを音読する。11時ごろ、ロシアの滞在手続きに必要な書類を提出し、寮費の支払いを行うため、寮の1階の事務室に行くことに。

 

事務室と言っても、広い空間に机が並び、皆がパソコンに向かい業務を行う・・・というような日本の光景とは違う。廊下の両脇に個室があり、部屋によって担当する業務は異なっている。

私が今日向かったのは、寮の滞在手続きの管理を行うおばさんのところだった。大柄で、黒髪のショートスタイルに眼鏡をかけた二コリともしないそのおばさんは、以前に別の手続きで訪れたときもこの日も、ロシアのポップミュージックをガンガンと大音量で流していた。パソコンの画面をちらりと見ると、仕事ではなく映画を観ているところだった。おいおい。

このおばさんは日本人留学生の間で、「プロプスクばばあ」と呼ばれている。プロプスクとは大学と寮への入館証で、これがなければ私たちは決して施設の中にも部屋の中にも入ることができない。「プロプスクばばあ」はこの入館証の発行を担う重要人物なのだが、やはりすこぶる愛想がなく厳格なので、数々の学生たちが提出物の不備を指摘され、突き返されてきたのだ。私は恐る恐る「プロプスクばばあ」に書類を提出し、よろしい、という御赦しを頂いた。

食堂で食事を済ませた後(この日はデザートがバナナクレープだった!)、今度は寮費の支払いの部屋に。10か月分の家賃が約12000ルーブル、2万円くらいなのだから激安だ。

 

 

この日のもう一つのイベントは、先日、寮の相部屋仲間のNちゃんと一緒に洗濯所に行ったとき、偶然知り合ったロシア人女性に日本料理を作ることだった。とりあえず冷や麦とお出汁、そしてなぜか、わらび餅をつくるセット(わらび餅粉・きなこ・黒砂糖)を日本から持ってきていた。それでも冷や麦だけじゃ寂しい。もううどんみたいになってもいいから、具になる野菜を買っていこうと、われらがスーパー、「アシャン」にいそいそと向かうことにした。

 

野菜売り場で買い物を済ませ、ふと魚売り場の方に寄ってみる。氷が敷き詰められた台の上に、オヒョウ、サバ、サケ、チョウザメ、カレイなどが並べられているが、その脇の水槽に、魚が泳いでいるのを発見する。天井から吊るされたプレートを見ると・・・「値下げ!生きたコイ」との表示が。ちょうど中年の男性が、魚売り場の店員のところへ行き、コイを買い求めているところだった。店員は網をもってきて、コイをすくいあげた。私はピチピチとコイがはね、しぶきを散らす光景をイメージしていたのだけれど、残念ながらこのモスクワの郊外のスーパーマーケットまで運ばれてきた彼らに、もうそんな力は残されていなかった。ぐったりとしたコイを、男性は3匹も買っていく。正直言って、まったくおいしそうではない。いったいどんな調理をするのか。どうしても気になり、男性の次にコイを買い求めたおばちゃんに突撃取材を行った。

 

「あのーすみません。そのコイ、どうやって料理するんでしょうか」

「焼くの」

「あ、スープとかじゃなくて?」

「スープでもいいけど、まあただ焼くわね」

「おいしいんですか?」

「おいしいわよ~。あなたたちどこから?JAPAN?Good Luck!」

 

おばちゃんは颯爽と去っていった。

 

部屋に戻り、硬い硬いニンジンと大根を醤油で煮込み、冷や麦をゆがいて、わらび粉と黒砂糖、水を鍋で熱してかき混ぜ続け、なんとかなんとか、料理は完成した。

ロシア人女性、カーチャさんは、笑顔の素敵な院生で、差し入れにデニッシュのようなパン、そしてロシア語の教科書まで買ってきてくれた。わたしたちは麺をすすりながら、家族構成や趣味、ロシアのことや日本のことについて雑談した。ロシア語だったのでうまく伝わったかわからないが、日本は暑中見舞いにそうめんなどを贈る慣習があること、なんでロシア人カップルは人前でいちゃつくのかということについても話した(後者のテーマについては、逆になぜ日本人はしないのか?というカーチャさんのもっともな返答で幕を下ろした)。

彼女はうれしそうに、スマートフォンに保存された彼女の家族写真を見せてくれた。彼女は5人兄弟の2番目、モスクワから2000キロ離れた町の出身だという。大家族のきれいな集合写真。お父さんとお母さんは仲が良さそうにお互いの腕を組んでいる。  

 

聞き取れない単語がたくさんあって、何度も私たちは言葉に詰まったけれど、それでもコミュニケーションの流れのようなものは存在していた気がする。こうやって偶然の出会いに身をまかせ、どんどん場数を踏んでいくことが必要だなーと改めて思う。